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札幌地方裁判所室蘭支部 昭和33年(わ)49号 判決 1958年7月21日

被告人 久野秀夫 外一名

主文

被告人両名を各懲役三年六月に処する。

被告人佐相については未決勾留日数中九十日を右の本刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人等両名は昭和三十一年八月十四日午後十時頃苫小牧市錦町二条通り中央マーケット附近道路上において、同所を酔歩中の加藤弘志を発見するや、被告人両名とも相互に意思を通じ右の加藤に因縁をつけて財物を強取しようと決意し、同人を同所附近の小暗い横小路に連れ込み、被告人佐相は被告人久野に対し、「面倒くさいからやつてやれ」と申向けながら、右加藤の顔面を手拳にて数回殴打し、被告人久野も亦、手拳を以つて右加藤の顔面部等を殴打しかつ靴履のまま加藤の腰部等を蹴りつける等合計十数回にわたり暴行を加えて右加藤の反抗を抑圧し、被告人両名協力して同人の着用していた背広上衣一枚(ポケットに現金三百円位在中のもの)を剥取り強取したものであるが、右の被告人両名の前記暴行によつて右加藤に対し全治約二週間を要する顔面打撲傷、口唇および口腔内挫創、右背、胸腰部打撲傷(内出血)の各傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)(略)

(確定判決)

被告人佐相は昭和三十三年二月六日滝川簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年(ただし四年間執行猶予)に処せられ、該判決は同月二十一日確定したものであつて、この点は同被告人に対する滝川区検察庁検察事務官の同年四月一日付前科調書と前掲同被告人の各供述調書および当公判廷での供述によつて明瞭である。

(法令の適用)

被告人両名の判示強盗致傷の所為は刑法第六十条第二百四十条前段に各該当するのでいずれも所定刑中有期懲役刑を選択し被告人佐相については判示確定判決ありたる罪とは同法第四十五条後段の併合罪の関係に在るので同法第五十条により未だ裁判を経ざる本件に付き処断すべく、かつ又、被告人両名とも情状憫諒すべきものがあるので同法第六十六条第七十一条第六十八条第三号によつて酌量減軽をなした刑期の範囲で被告人両名を各懲役三年六月に処し、被告人佐相については刑法第二十一条によつて未決勾留日数中九十日を右の本刑に算入する。

なお訴訟費用は被告人両名共負担能力の無いことが明白であるから刑事訴訟法第百八十一条第一項但書によつて被告人両名共全部これが負担を免除する。

(訴因についての判断)

本件は当初判示被害者加藤弘志に対する被告人両名共謀の単純傷害と被告人佐相の同被害者に対する単独強盗の所為として起訴せられたものであつて、昭和三十三年四月一日付起訴状記載の公訴事実によれば「第一、被告人両名は共謀の上、昭和三十一年八月十四日午後十時頃苫小牧市錦町二条通り中央マーケット附近路上を酔歩中の加藤弘志に因縁をつけてその附近の小路に連れ込み交互に手拳又は靴履の足で十数回にわたり同人の顔面、背部等を殴蹴し因つて全治約二週間を要する顔面打撲傷、口唇、口腔内挫創、右背胸腰部打撲傷(内出血)を負わせ、第二、被告人佐相は右加藤弘志が前記共同暴行に因り極度に畏怖し抵抗力を喪失している機会に乗じ即時同所において現金三百円位在中の右加藤着用の背広上衣一枚を剥取り強取したものである。」というのであつて、その後公判審理の経過にかんがみ検察官は右両被告人について同年六月十一日付予備的訴因罰条の追加請求書によつて判示認定の趣旨の強盗致傷の一罪として訴因を予備的に追加したものであるが、被告人久野は財物強取の点に加功せざりし旨主張するのでこの点について審按するに、本件当初の起訴に係る訴因においては被告人両名共謀の傷害行為と被告人佐相単独の強盗として起訴せられているのであるがその内被告人佐相の強盗の所為は、前掲訴因第一の被告人両名の暴行の所為の結果を利用することにより遂行せられた強盗であるというのであるが、前掲各証拠内容を比較検討するに被告人久野秀夫は被告人佐相明生と協力して被害者加藤を判示二条通りより暗い横小路に連れ込み暴行し、その際又はその直前乃至直後に本件判示の如く被害者加藤より何等かの金品を奪取する意図のもとになされていることを充分予測乃至予見していたものと考えられる、のみならず前掲証拠の内、被害者加藤の証人尋問調書および被告人佐相の当公判廷での供述によれば被告人久野は被告人佐相と共に右加藤に対し終始暴行を継続してをり、かつまた被害者の背広上衣を剥取る際も直接手をくだして実行行為を分担してをり、単なる見張ではないことが認定出来る、よつて判示の如く共謀による強盗致傷の一罪が成立するものとして有罪の認定をなしたのである。

しかして、被告人久野については当初の訴因は前記の如く被告人両名共謀の傷害罪のみの起訴であるが右当初の起訴状記載の公訴事実のうち被告人佐相の強盗罪の訴因として掲記せられるところは、右の傷害行為を利用ししかもその暴行行為継続中においてなされた財物強取である点ならびに強盗致傷罪は傷害罪と強盗罪との結合犯であり、本件行為の具体的態様により、右の被告人久野の単純傷害の訴因とこれに対する予備的追加訴因としての強盗致傷との間にも公訴事実の同一性を喪失しないものと解して本件訴因の予備的追加を有効と解する。

しかして、予備的追加訴因について有罪の認定をなしたのであるから当初の各訴因たる傷害および強盗についてはいずれの被告人に対しても、公訴棄却又は無罪の言渡を要しないものと思料する。

以上によつて主文のように判決する。

(裁判官 畔柳桑太郎 藤本孝夫 岡本健)

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